法律Q&A

法律Q&A

相続

相続人など

1. 相続人の範囲、相続欠格、推定相続人の廃除

夫が亡くなりました。相続人は、私と長男、長女及び二女です。遺産分割の協議を行うため、相続人全員が集まった席で、二女がお父さんの遺言を預かっていたと言って、遺言書と書いた書面を出してきましたが、どうみても夫の書いたものとは思われませんので、二女を問い詰めたところ、自分が父親の意を汲んで作ったものだと白状しました。このようなことをした二女にも相続権はありますか。なお、二女は結婚しており子どもが二人おります。

二女の行為は、民法891条5号に規定する遺言書の偽造に該当し、相続人の欠格事由となります。したがって、法律上当然に被相続人との関係で相続資格を失います。このため、二女のお子さん二人が代襲相続することになります。

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2. 相続人不存在

わたしがケアマネ-ジャ-として担当していた一人暮らしの女性が亡くなりました。生前から、自分は天涯孤独だとおっしゃっていました。実際、身寄りの方がいらっしゃるのか判りません。お住まいは、その女性の所有であり、預金も少しあります。これらの財産をどのように処理すればよろしいですか。

民法951条は、「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする」と規定しています。ご相談の事例は、この規定に該当し、家庭裁判所が、相続財産管理人を選任し、亡くなられた女性の財産の管理を行います。したがって、相続財産管理人の指示に従ってください。

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3. 相続人不存在の場合の被相続人の債権者

親から相続した一軒家に一人暮らしをしている知人に数年前現金20万円を貸しました。毎月少しずつ返してくれていたのですが、つい最近亡くなったとの知らせを受けました。貸金はまだ10万円以上残高が残っています。この友人は、身寄りがないとのことです。貸したお金は戻ってこないのでしょうか。

あなたの場合、相続財産管理人の選任請求権を有する利害関係人に該当しますので、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求し、その相続財産管理人に対し、貸金の弁済を求めていくことになります。

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4. 相続放棄

父が、多額の負債を残して亡くなりました。幸い、自宅は母と長男であるわたしの名義になっています。父名義の預金も少しはありますが、負債のほうが多く、とても返済できません。父の相続人は、母と、わたしと未成年の妹の3人です。どのような方法をとればよいでしょうか。

相続人は、被相続人の死亡により、被相続人の一切の権利義務を承継します。したがって、何も手続をしないと、お父さんの負債を相続人全員が引き継ぐことになります。これを避けるためには、限定承認をするか、相続放棄をすることになります。いずれの手続も、相続の開始があったことを知ったときから、3ヶ月以内にしなければなりません。

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5. 法定承認

事業家である父が亡くなりました。父の葬儀費用に充てるため、父名義の預金を解約しようと思いましたが、叔父から、父は事業を行っていたため、負債もあるので、それを調べてからでないと多額の負債を引き継ぐことになると注意されました。どのようなことをすると、相続を承認したことになるのでしょうか。

 

葬儀費用を相続財産から支出しても、相続財産を処分したこととはならず、相続を承認したことにはなりません。

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相続財産

1.  

先月、父が亡くなりました。相続人は母と私と弟です。父には、自宅不動産(土地及び建物)、預金、生命保険(受取人は母です。)と現金があります。これらを遺産分割で分配することは可能ですか。また、自宅不動産の住宅ロ-ンも残っていますが、これを一人の相続人に集めることはできますか。

自宅不動産、現金及び預金は遺産分割の対象となります。また、住宅ロ-ンについては、融資を受けている金融機関との関係ではその同意がない限り一人の相続人に集めることはできません。
※なお、下記御池ライブラリー記事では、預金について、結論の異なる最高裁判例を紹介しておりますが、記事掲載後、新たな最高裁判例(最大決平成28年12月19日、最一小判平成29年4月6日)が出ましたので、補足させていただきます。

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2.  

(上記の事案を前提として)自宅不動産の価値が下がっている状況でしたので、相続人全員で話し合って自宅不動産を売却しました。売却代金は弟が保管しているのですが、売却代金の一部を私や母に渡してくれません。売却した場合の代金は遺産分割の対象となりますか。

なりません。ただし、相続人の皆さん全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることができます。合意できなければ、別途民事訴訟で解決することになります。

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3.  

父の葬式費用は遺産分割の対象になるのでしょうか。

なりません。ただし、相続人全員が合意をするのであれば、遺産分割の中で解決することは可能です。しかし、合意できないのであれば、別途民事訴訟で解決する必要があります。

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4.  

父が亡くなったので、私、兄、母で遺産分割の協議をしたところ、兄が父の死亡の前に父の預金のほとんどを引き出していることが判明しました。引き出された預金を遺産分割の対象とすることができますか。

できません。ただし、相続人全員が合意をして、これを遺産分割協議の中で清算することはできます。合意できなければ、民事訴訟で解決するしかありません。

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遺産分割

1. 遺産分割の方法

同居していた父が亡くなりました。相続人は長男の私と姉3人で、先日皆で集まって父の残した財産の遺産分割の話をしたところ、姉3人は多数決で決めようと言い出すなど、なかなか話合いがまとまりません。このようなときはどうしたらよいのですか。

遺産分割は、相続人同士の話合いによる遺産分割協議によることが基本で全員の同意が必要となりますが、協議がまとまらないときは、家庭裁判所における遺産分割調停で、それでもまとまらないときは遺産分割の審判によって解決が図られます。

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2. 法定相続分等と異なる遺産分割

法律で決められた相続分というものがあるそうですが、これと異なる遺産分割をすることはできるのでしょうか。
また、父が遺言で「自分の財産については長男が2分の1、次男と三男は各4分の1ずつ相続する。」と定めていた場合、これと異なる遺産分割をすることはできるのでしょうか。

協議によって遺産分割をする場合、相続人全員が同意するのであれば、法定相続分と異なる分割をすることができます。同様に、相続人全員が同意するのであれば、遺言で定められた相続分と異なる相続分による遺産分割をすることができます。

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3. 非嫡出子(婚外子)の相続分

父が平成24年12月1日に亡くなりましたが、遺産分割協議はまだされていません。父は、今から20年前に妻と別居して私の母と暮らすようになって、私が生まれました。私は非嫡出子(婚外子)ということになります。前の奥さん(正妻)は既に亡くなりましたが、父との間に2人の子(嫡出子)がいます。父の遺産について、私はどのような権利を主張できるのでしょうか。

嫡出子と同等の相続分を主張することができます。

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4. 唯一の財産の分割方法等

同居していた父が亡くなりましたが、父の残した財産は住んでいた家とその敷地くらいで、他にめぼしい財産はありません。相続人は、長男の私、嫁いで家を出た姉と妹の合計3人ですが、姉と妹はこの家と敷地を売ってその代金を分割するよう要求しています。しかし、私は、幼い頃からこの家で生活してきて愛着もありますし、他に住むところもありません。私がこの家と敷地を取得することはできないでしょうか。

家と敷地を売却してその代金を相続人全員で分割する方法もありますが、あなたが単独でその家及び敷地を取得して、お姉さんたちに代償金を渡すという方法が考えられま

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5. 特別受益

父が亡くなりましたが、生前の父は私たち3人兄弟のうち、長男を特にかわいがり、長男の結婚時にはマンションを買い与えています。次男の私や妹にはそのようなことはしてくれませんでした。それなのに私や妹の相続分は長男の相続分と同じなのでしょうか。

長男が被相続人(父)の生前に特別の利益を受けていたものとして、この受益分を相続財産に加えて、それぞれの相続分を算出することになります。

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6. 寄与分

母の死亡後、脳梗塞で寝たきりになった父は在宅介護を希望し、三女で末っ子の私が同居して付きっ切りで面倒を見てきました。しかし、嫁いで家を出た長女と次女は、父の介護の手伝いはおろか、父の見舞いにも来たことがありませんでした。このほど父が亡くなり、相続財産として自宅不動産のほか預金がありますが、私たち3人の子の相続分は同じなのでしょうか。

あなたの療養看護が「特別の寄与」と認められれば、その分が考慮されて相続分が算定されることになります。

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遺言・遺言執行者

1. 遺言

私には妻と3人の子どもがいます。私は複数の不動産を保有しているのですが、自分が死亡した後に、これらの不動産を巡って妻や子どもたちが争うのを避けたいと思います。そこで、各不動産を誰が相続するか、今のうちから決めておきたいのですが、良い方法はないでしょうか?

遺言を作成しましょう。遺言によって、あなたの不動産を誰に帰属させるか、生前に決めておくことができます。

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2. 負担付遺贈

私には子どもが2人おり、これまで私たちは代々続いてきた老舗の飲食店を経営してきました。この店舗の不動産は私の所有になっています。
私は、私の死亡後、長男が私の後を継いで、引き続きこの場所でお店を続けてほしいのですが、長男はあまり積極的ではありません。なお、次男はお店を継ぐことには積極的です。
私は、仮に長男がお店を継がない場合には、長男の子どもではなく、次男にお店を継いでほしいと思っています。
私は、上記の思いを実現するために「当該不動産を長男に相続させる。」という遺言を作成したのですが、この内容で問題ないでしょうか。

あなたの思いを実現するためには、この遺言では不十分です。この内容だと、長男が店を継がなくとも、当該不動産を相続することになりますので、次男が継ぎたいと思っていても、継げるとは限りません。
『長男がお店を継続する場合には当該不動産を譲る』という内容の遺言を作成すべきでした。具体的にいかなる遺言内容にすればいいかは、専門家に相談することをお勧めします。

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3. 遺言の撤回

先日、父が死亡しました。父の相続人は、私と弟の2人だけです。父の死亡後に自宅金庫から見つかった遺言によると、遺産の大半を私が相続する内容になっていました。ところが、その後、父のメインバンクの貸金庫から、当初見つかった遺言よりも新しい遺言が発見され、それには、遺産の大半を弟が相続する内容になっていました。私たちはどちらの遺言に従えばいいのでしょうか?

いずれの遺言も法的に有効であるとすると、新しく作成された遺言(本件では、メインバンクの貸金庫から発見された遺言)に従う必要があります。

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4. 遺言執行者

先日亡くなった父の遺言には、遺言執行者としてA弁護士が指定されていました。父の相続人は、母と私、妹の3名ですが、3名ともこのA弁護士とは面識がありません。遺言執行者とはどういうことをする人なのですか。また、面識がないことを理由として解任することはできますか。

遺言の内容には、遺言の効力が発生すると同時にその内容が実現されるものと、実現するために執行行為が必要なものとがありますが、遺言執行者は、後者について、遺言者に代わって、遺言を実現するために必要な事務処理を執行する者です。遺言執行者の解任は、正当な理由が必要であることから、面識がないとの理由だけで解任することはできません。

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遺留分

1. 遺留分とは

私の父親が亡くなりました。母親は既に他界しており、私には兄が一人います。父親は、生前、「自分の全ての財産をAさんに遺贈する」との遺言書を書いていました。私は、父親の財産を何も相続できないのでしょうか。

いいえ。あなたにも遺留分という権利があります。あなたの場合は、お父さんの遺産のうち4分の1の遺留分が認められます。

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2. 遺留分の算定

上記のケースで、父は生前、私に対し、私が自宅を購入するための資金を贈与してくれていました。また、父には、債務があります。この場合、父の遺言書によって、私の遺留分がいくら侵害されたのかを算定する方法を教えてください。

抽象的な遺留分の割合のみでは、具体的な遺留分侵害額を確定することはできません。解説で述べる方法により、生前贈与や債務を考慮して、遺留分侵害額を算定する必要があります。

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3. 遺留分減殺請求権

上記のケ-スで、私は、Aさんに対して、遺留分が侵害されたことを主張したいと思いますが、どのような方法によればいいでしょうか。また、Aさんとの間で紛争になった場合、どうやって解決すればよいのでしょうか。

Aさんに対し、遺留分減殺請求を行うことになります。これに対し、Aさんが争ってきた場合には、まず家庭裁判所で調停を行い、それでも解決できない場合は、民事訴訟で解決することになります。

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4. 現物返還と価額弁償

私の父は、私に事業を承継させることを意図して、事業用資産を長男である私一人に相続させる遺言を遺していました。私は、他の兄弟から遺留分減殺請求を受けているのですが、事業用資産の現物に代わって、金銭で弁償することは可能でしょうか。

現物返還が原則ですが、価額で弁償することも許されます(民1041条)。

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5. 遺留分減殺請求権の消滅時効

遺留分減殺請求権に時効はありますか。

あります。遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で、時効により消滅します(民1042条前段)。また、相続開始時から10年を経過した場合も消滅します(同条後段)。

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配偶者短期居住権及び配偶者居住権

1. 配偶者短期居住権(1)-配偶者短期居住権の意義とこのような権利が認められた趣旨

介護施設に入居していた夫が亡くなり、妻である私と息子A・Bが相続しました。夫の遺産は、私が無償で居住していた甲建物とわずかな預貯金だけです。夫死亡後すぐに遺産の分配をめぐり争いになり、息子たちは甲建物を早く売るために私に甲建物からすぐに出て行けと要求しています。私はすぐに出て行かなければならないのでしょうか。

すぐに出て行く必要はありません。遺産分割により甲建物の帰属が確定する日または相続開始時(夫死亡時)から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間、すなわち最低でも相続開始から6か月間は甲建物に無償で住むことができます。したがって、遺産分割の協議が相続開始から6か月を経過した時点で調い、甲建物をAが取得することになった場合は、そのときまで無償で居住することができます。

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2. 配偶者短期居住権(2)-配偶者短期居住権が発生する場合

夫が亡くなり、妻である私と先妻との間の子であるAが相続しました。夫の遺産は、私が夫と同居していた甲建物と預金2000万円でしたが、夫は「預金2000万円を妻(私)に相続させる。甲建物はAに相続させる。」という遺言を残していました。Aは、私に甲建物からすぐに出て行けと要求しています。私はすぐに出て行かなくてはならないのでしょうか。

すぐに出て行く必要はありません。配偶者短期居住権が発生し、Aから退去要求のあった日から6か月間は、無償で甲建物に居住することができます。

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3. 配偶者居住権(1)-配偶者居住権の意義とこのような権利が認められた趣旨

夫が亡くなり、妻である私と先妻との間の子であるAが相続しました。夫の遺産は、私が夫と同居していた甲建物(評価額2000万円)と預貯金3000万円の合計5000万円です。私は、高齢でもあり、甲建物に引き続き居住したいのですが、遺産分割で甲建物を取得した場合は取得できる預貯金額が少なくなり、これからの生活が心配です。住む場所を確保して、なおかつ預貯金を多く取得することはできないのでしょうか。

遺産分割協議または遺産分割調停において、あなたが甲建物に無償で居住できる配偶者居住権を取得し、甲建物の所有権をAが取得する方法があります。例えば、配偶者居住権が1000万円と評価された場合、法定相続分(2分の1)に従えば、あなたは配偶者居住権のほか預貯金1500万円を取得することができます。

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4. 配偶者居住権(2)-配偶者居住権が発生する場合

私と妻は、いずれも再婚の夫婦で、私には先妻との間の子であるAが、妻には先夫との間の子であるBがいます。子どもたちとはいずれも養子縁組はしていません。私は、現在妻とともに私所有の甲建物に居住していますが、私の財産はそれ以外に若干の預金があるくらいで、私の死後、妻とAとの間で相続争いが起こり、妻が引き続き甲建物に住み続けることができるか心配です。そこで、妻に甲建物を遺贈することも考えましたが、それでは妻が死亡したときに甲建物の所有権をBが相続してしまうことになります。私の死後も妻が甲建物に住み続けることができ、かつ、甲建物の所有権はAが取得できる方法はないでしょうか。

妻に配偶者居住権を、Aに甲建物を遺贈する方法があります。また、妻に配偶者居住権を、Aに甲建物の所有権をそれぞれ贈与する旨の死因贈与契約を締結しておくことが考えられます。

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5. 配偶者居住権(3)-配偶者居住権の存続期間、譲渡・買取請求

夫が亡くなり、妻である私と先妻との間の子Aが相続しました。夫の遺産は、私が無償で居住していた甲建物と預貯金です。私は、甲建物に引き続き無償で居住したいので、遺産分割で配偶者居住権を取得したいのですが、私は、どのくらいの期間、居住を続けることができるのでしょうか。また、私が、高齢となって身体が不自由になり、介護施設に入所する必要ができたとき、その費用の足しにするため、配偶者居住権を第三者に売ったり、甲建物の所有権を取得したAに対して買い取ってもらうことはできるのでしょうか。

配偶者居住権の存続期間は、遺産分割等で特に定めがなされない限り、配偶者の終身(配偶者が死亡するまでの期間)ということになります。この配偶者居住権は、第三者に譲渡することはできません。配偶者居住権を建物所有者に買い取ってもらうことは可能ですが、配偶者に一方的な買取請求権があるわけではなく、建物所有者との合意が必要です(なお、建物所有者の承諾を得たうえで第三者に居住建物を賃貸することはできます。)。

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持戻し免除の意思表示の推定

1.  

結婚後、20年以上一緒に暮らしてきた夫が亡くなりました。夫と一緒に暮らしていた住居とその敷地については、生前に夫から私が譲り受けており、夫の遺産は1000万円の預貯金のみとなっています。ところが、先妻の子から、私が譲り受けた土地建物も相続の対象になると言われています。本当でしょうか。

相続人が被相続人から生前に遺産の前渡しとなるような贈与を受けていた場合には、「特別受益」となり、その額を相続財産額に加えた上で相続分を算定することとなります(「持戻し」と呼ばれます。)。もっとも、今回の相続法改正によって、①婚姻期間が20年以上の夫婦において、②居住用の建物またはその敷地の遺贈または贈与があった場合には、「持戻し」を免除する意思表示があったものと推定されることになりました。したがって、妻が夫から生前に譲り受けた土地建物は、当然には相続の対象にならないと言えます(ただし、遺留分の算定には別途の留意が必要となります。)。

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遺産分割前の預貯金債権の払戻し

1. 遺産分割前の預貯金債権の仮分割の仮処分

父が突然に亡くなりました。本人が亡くなると遺産分割が完了するまで預貯金の払い戻しが受けられないと聞きましたが、そうだとすると、葬儀費用の支払いもある上に、これまで家族の生活費は父の預貯金から支払っていたので困ります。こういう場合に必要な分だけでも先に払い戻してもらうことはできないのでしょうか。

遺産の分割の審判または調停の申立てがあった場合であれば、家庭裁判所に預貯金債権の仮分割を求めることができます。旧法では、事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があることが要件とされていましたが、今回の相続法改正によりその要件が緩和され、それ以外に、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により預貯金債権を払い戻す必要があると認められるときにも、仮分割の仮処分を受けることができることとなりました。

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1. 家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻し

仮分割の仮処分を申し立てて裁判所の判断を受けるというのは、素人には大変そうなのですが、そこまでしないと預貯金の払戻しは一切受けられないのでしょうか。

今回の相続法改正により、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、口座ごとに一定の計算式で求められる額までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることとされました(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)が限度とされます。)。ここでいう一定の計算式とは、(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)というものです。

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遺産に属する財産の分割前の処分

1. 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

父が亡くなり、私と兄の二人が相続人となりました。ところが2000万円あったはずの父の預貯金から、父が亡くなった後に、密かに兄が1000万円を引き出してしまっていました。この引き出された1000万円も遺産分割の対象とすることができるのでしょうか。

密かに引き出された1000万円に関しては、不法行為や不当利得に基づいて請求することも考えられますが、そのような方法では実際には十分に救済されないことが問題となります。そこで、今回の相続法改正により、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることとされました(新法906条の2)。この同意には、当該処分をした共同相続人の同意は不要とされますので、本件ではご自身の同意のみによって、引き出された1000万円を遺産分割の対象に含めることが可能となります。

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自筆証書遺言と保管制度

1. 自筆証書遺言の方式

遺言を残したいのですが、財産が不動産や預貯金、貴金属などいくつもあり、手書きで正確に財産を含めた全文を書くのは、途中で書き間違えたりするおそれがあります。その結果、作成した遺言が効果のないものになってしまいそうで心配です。今回の相続法改正で作成方法がどのように変わり、どのような点に注意して書けばよいでしょうか。

自筆証書遺言の本文は、従来通り、遺言者が、その全文、日付、及び氏名を自分で書き(自署)、押印しなければなりません。しかし、今回の相続法改正によって、相続財産の全部または一部の目録を自筆証書遺言に添付する場合には、その財産目録は、ワープロで作成したものでもよいし、預金については通帳の写しを添付してもかまわないことになりました。

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2. 自筆証書遺言の保管制度の要件

自筆証書遺言を保管してもらえる制度ができたと聞いたのですが、具体的に、どこに、どのような方法で保管をお願いすればよろしいでしょうか。

自筆証書遺言を作成したご本人が、遺言書に封をしないで、住所地などの法務局へ持参して、保管申請をすることになります。

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3. 自筆証書遺言の保管制度の効果

自筆証書遺言の保管制度を利用した場合、どのような効果があるのですか。一旦保管を申請すると、遺言書の返還を求めたり、遺言の撤回をすることはできなくなることはありませんか。

保管制度を利用して保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所による検認手続は不要になりました。
保管を申請した後も、遺言者は、いつでも遺言書(原本)の返還・画像情報の消去および閲覧を請求することができます。
一方、相続人、受遺者および遺言執行者等は、遺言者が亡くなった後は、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付を求めることができます。
また、遺言者は、保管制度を利用したからといって、遺言の撤回をすることができなくなるわけではありません。

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遺言執行者の権限

1.  

先日、父が死亡しました。父の相続人は、母と子である私と弟の3人だけです。父は、「すべての預貯金を母と、私と、弟に3分の1ずつ相続させる」という遺言を残し、私を遺言執行者に指定していました。そこで、銀行に父名義の預金の払い戻しを求めたところ、銀行は、相続人全員の同意がなければ払い戻しに応じないと拒否しました。私が遺言執行者として単独で預金の払い戻しを行うことはできないのですか。

遺言執行者であるあなたは、預金や貯金の払い戻しを請求することができます。

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遺留分制度の見直し

1. 遺留分とは

私の両親は私が子どもの頃に離婚して、私は母親と暮らしてきました。父親は再婚して、再婚相手との間に2人の子どもがいます。先日、父親が亡くなり、49日の法要の後で、父親と再婚した女性から、この女性に全部の財産を相続させるという父親の遺言書を見せられました。私は、父親の財産を何も相続できないのでしょうか。

相続できます。あなたには、相続財産の中で一定の割合で相続人に留保されている、「遺留分」が認められています。たとえ遺言では何ももらえない記載となっていても、本件では、父親の遺産のうち、子としての相続分6分の1の2分の1である12分の1の遺留分が認められます(旧法1028条、新法1042条)。遺言の内容が遺留分を侵害している場合には、侵害された遺留分額を請求することができます。具体的な遺留分侵害額はQ3、Q4で記載したように、民法で規定された計算方法で算定されます。

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1. 遺留分に基づく請求権

前述1.のケースで父親の遺産は自宅不動産(評価額6000万円)だけであると聞いています。私の遺留分はどのような権利となるのでしょうか。

遺留分の不足分(遺留分侵害額)の金銭を請求することになります。旧法では、それぞれの財産ごとに遺留分割合の権利があり、共有になるとされていましたが、今回の相続法改正によって、遺留分は金銭で評価し、遺留分の不足分(遺留分侵害額)を金銭に評価・算定して、「遺留分侵害額請求権」という金銭債権として請求する権利となりました(新法1046条1項)。具体的な金銭の計算方法は後記3、4を参照してください。

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1. 生前贈与があったときの遺留分侵害額の算定

前述1.のケースで、私は父親から15年ほど前に学資や生活資金として500万円の贈与を受け援助してもらいました。また、再婚した後の2人の子どもはそれぞれ2年前と3年前に自宅の購入資金として1000万円と500万円の贈与を受けています。このような贈与は遺留分の算定に影響するのでしょうか。

贈与については、具体的な遺留分侵害額を算出する際の、遺留分の基礎となる相続財産の価額の算定や、遺留分額から引かれる特別受益として影響する場合があります。
旧法では、遺留分の基礎となる相続財産の価額の算定においては、「相続人」に対する生前贈与は時期の制限がありませんでしたが、新法1044条3項によって、特別受益にあたる贈与につき相続開始前の10年間にされたものに限定されました。

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1. 遺留分侵害額の算定方法

遺留分の割合だけでは請求できる遺留分侵害額は決まらないと聞いています。新法では、遺留分侵害額の算定方法はどのように定められているのでしょうか。また、Q7-1からQ7-3の私のケースでは具体的な遺留分侵害額はいくらになるのでしょうか。

実際の遺留分侵害額の算定は、遺産や遺留分割合から算出された額だけでなく、何らかの遺産相続をしているか、生前贈与や遺贈の有無、債務の状況などによって具体的に算定されます。新法1046条2項で金銭請求できる遺留分侵害額の算定方法を明文化しています。
それによれば、あなたの遺留分侵害額は125万円となります

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2. 遺産に金銭や預金がない場合の特別措置

私は、夫の前妻の子から遺留分侵害額請求を受けた相続人です。遺産は夫と2人で暮らしてきた自宅不動産だけです。遺留分侵害額を金銭で払えといわれても現金がありません。遺留分侵害額はすぐに払わなくてはならないのでしょうか。

支払期限の猶予を求めることができます。本来、具体的な遺留分侵害額の金額が請求されたら、ただちに支払う必要があります。しかし、遺産の多くが不動産や株式などですぐに現金化できない場合には払うことができないので、裁判所に請求して、相当と考えられる猶予期限を許与してもらうことができます。

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相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

1. 被相続人の親族の特別寄与制度

私は、長男の嫁として、5年前に脳梗塞で倒れた義理の父の介護を在宅で行ってきました。先日、義理の父が他界したのですが、長男である私の夫は義理の父よりも先に他界しています。また、私と夫との間には子がいません。
今回の相続法改正で、相続人以外の親族が被相続人に貢献をした場合、その貢献を考慮するための新しい方策が設けられたと聞きましたが、概要を教えてください。

旧法には、病気療養中である被相続人の介護を行うなど、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者がいるときに、この寄与を考慮して相続分の算定を行うという、寄与分の制度があります。しかし、旧法では、寄与分は相続人にしか認められていません。新法では、相続人以外でも、特別の寄与をした被相続人の親族は、寄与に応じた額の金銭(「特別寄与料」)の支払を請求できることになりました。

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2. 特別寄与料の請求が認められるための要件

私は、義理の父の相続人に対し、特別寄与料の請求をしたいと思いますが、私の前述1,のようなケースで請求が認められることはあるでしょうか。

特別寄与料の請求が認められるためには、①被相続人の親族であること、②無償で労務提供による特別の寄与行為をしたこと、③②により被相続人の財産が維持され、または増加したことという3つの要件を充たす必要があります。よって、あなたの場合、三親等内の姻族として被相続人の親族にあたりますので、あなたの貢献が②及び③に該当すると判断されれば、特別寄与料の請求が認められる可能性があります。

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3. 特別寄与料の請求方

私が義理の父の相続人に対し特別寄与料の請求を行う場合、具体的にどのような方法ですればよいのですか。

まずは、相続人との間で協議をします。協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所に対し協議に変わる処分を請求します。
なお、Q8-2の解説で述べたとおり、相続人に対する特別寄与料支払請求権は、現行の寄与分とは異なり、遺産分割とは無関係な権利であるため、あなたが被相続人の遺産分割調停や審判に参加することはできません。

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4. 権利行使の期間

義理の父が他界してから既に1年半が経過してしまったのですが、今からでも特別寄与料の請求はできるのでしょうか。

できません。特別寄与料の請求については、比較的短期の期間制限が設けられていますので、注意が必要です。

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